私たちは毎日食べたいものを食べて生活しています。健康を保ち、嗜好を満たすために「何を食べるか」には非常に気を使っていますが、食べたものをどう消化吸収して排泄するかに関してはほとんど無頓着だといっても過言ではないと思います。食べたものを消化吸収する消化器は大切な器官ですが、それだけに日々のケアを怠ると全身の体調にも影響を及ぼしてしまうことにもなりかねません。
消化器の中でも特に大腸は消化吸収と排泄の両方に深い関係のある重要な部位ですから、定期的に検査を行うなどして常にベストコンディションを保ちたいものです。
目次
大腸内視鏡検査とはどんなものか
大腸の病気にはさまざまなものがあります。肉眼では見えない部分ですから便潜血検査や大腸内視鏡検査などを定期的に受けて重大な病気に陥るのを避けることが大切です。
大腸の病気を初期のうちに発見するためには、まず便潜血検査を受けて血便があるかどうかを診てもらいます。検査の結果が陽性ということであれば、次は大腸内視鏡検査に進みます。
大腸内視鏡検査では大腸内視鏡(colonoscope)を使って大腸内部を直接観察しますので、かなり正確な診断を受けることが可能です。
大腸内視鏡は直径が約13~14mmで、柔軟性にもすぐれているのが特徴です。大腸は肛門から盲腸に至る器官ですが、曲がりくねっていてひだなどがあるので、検査の際には空気(炭酸ガス)を注入しながらカメラを入れていきます。大腸内視鏡を肛門から入れる際はけっこうな痛みがあるので、麻酔や鎮痛剤、鎮静剤を用いることがほとんどです。
大腸内視鏡の先端に装備されているカメラはハイビジョンで視野も広いので、大腸壁に異変がある場合には、これをくまなく調べることが可能です。最近の大腸内視鏡には100倍以上の光学ズームも搭載されていますから、ポリープが発見された場合にも、それが良性か悪性かをその場合でだいたい判断することができます。
ポリープなどは検査中に切除することも可能ですから、一度検査を受けた後にもう一度ポリープを切除するために管を入れ直すといった二度手間が必要ありません。身体にほとんど負担をかけずに検査ができるのがこの大腸内視鏡検査のメリットといっていいでしょう。
特定疾患に指定しされているクローン病
大腸内視鏡検査で分かる大腸の病気の中でも原因が不明なために根治が難しいのが「クローン病」です。厚生労働省によって特定疾患にも指定されているこのクローン病は「CD」の略称でも知られています。クローン病は何らかの原因で腸内に炎症が起こり、その部分が潰瘍になってしまう病気で、若い男女に多くみられます。女性であれば15~19歳、男性の場合には20~24歳での発症が最も多く、中高年で発症することはまずない病気です。
大腸内視鏡で見るとちょうど口内炎に似たアフタ(びらん-浅い潰瘍)が見られることがありますが、これがクローン病です。症状は下痢や血便、発熱、腹痛などがあげられます。潰瘍があるために大腸内での消化吸収が十分にできず、栄養障害から体重減少へとつながることもあります。若年がかかりやすい病気ですから、ちょっとでも下痢や体重減少などの症状が続いたらすぐに胃腸科で診察を受けるようにしたいものです。
クローン病の中には一部、潰瘍性大腸炎や大腸がんに患部が似ているものもありますので、精度の高い大腸内視鏡で詳細に検査をしてもらうことが大切です。さらにクローン病は大腸内ばかりではなく小腸の部分にも発症しやすいので、「バルーン内視鏡」と呼ばれる機器で確認します。
クローン病はよくなったり悪化したりを繰り返すやっかいな病気ですが、食物療法や薬物療法をきちんと守っていかないと、潰瘍が粘膜よりも深いところにまで達して腸管に穴が開くこともありますので注意しなければなりません。
大腸がんは内視鏡で検査ばかりかある程度の治療も可能
日本では昔から動物性脂肪を極力控えた食生活が主流とされてきたため、大腸がんの罹患率は欧米諸国と比較するとかなり低いものでした。ところがここ30年ほどで毎日のメニューが劇的に変化し、肉食を中心とした脂っこい食事が好まれるようになって以来、大腸がんにかかる人、大腸がんで亡くなる人の数が突然増加しました。
今や日本人の死因のトップクラスにまで上がるようになった大腸がんですが、定期的に大腸がん検診を受けて早期発見に努めればかなりの確率で治癒することができます。
大腸がんの診断では大腸内視鏡検査が役立ちますが、大腸がん検診を受ける人は最初に便潜血検査を受けてみて、これで陽性が出た場合(血便がある場合)には大腸内視鏡検査に進むことになります。
大規模に行われた臨床試験によれば、大腸内視鏡検査を定期的に受けることによって大腸がんによる死亡率は約70%も減少するといわれています。内視鏡技術は日々格段に進歩しており、開腹をしなくても相当広い範囲の切除も可能な時代になりました。40歳を過ぎたら面倒に思わずに定期的に胃腸科を訪れ、大腸に異常がないかをチェックしていくことが重要です。
大腸がん検診は各地方自治体でも行っていますので、積極的にこれを受けることによって早期発見をすることができます。現在の大腸がん検診受診率は男女共に30%を下回っているのが現状です。
大腸内視鏡検査は下剤を飲まなければならないなど多少の負担はありますが、機会のあるときに受けておいて損はありません。
大腸の病気の中でも多い大腸ポリープ
大腸の病気の中でも特に多いのが大腸ポリープです。ポリープ(Polyp)というのは粘膜部分に形成された隆起のことで、大腸はもちろん子宮頸部や胃、声帯、鼻腔粘膜など体内のあちこちに発生します。ポリープ自体は悪性ではないのですが、切除せずに放置していくと次第に悪性に変化してがんとなっていくものもあります。
患部は隆起していますので大腸内視鏡で見れば一目瞭然ですから、検査を受けて見落とされる危険はまずありません。大腸ポリープは大きく分けて「非腫瘍性ポリープ」と「腫瘍性ポリープ」がありますが、どちらかを区別するために無害な青色の色素を散布して内視鏡で観察し、判断します。
腫瘍性ポリープの場合には、がんが疑われるものか、あるいは良性の腺腫であるかをさらに見極めるために病変部分を切除して分析を行います。
ポリープは内視鏡の管から操作することでその場で切り取ることが可能ですが、切除には「スネア」と呼ばれる金属製の輪が使われます。茎のあるタイプのポリープであればスネアを引っかけた状態で高周波電流を流し、茎ごと切り取る「ポリペクトミー」が行われますし、平坦な形状のポリープであれば粘膜部分に薬剤を注入してポリープを持ち上げやすくしてスネアで切り取ります(EMR)。
大腸がんというのはポリープが徐々に大きくなってがんに進行することがわかっていますので、定期的に大腸内視鏡検査を受けてポリープが発見されるたびに切除していけば、大腸がんになるリスクを抑えることができます。
大腸内は日々食物のカスに接している器官ですから、便秘などで中の食物が長時間停滞すると腐敗することもありますし、そうなると毒素が出て腸壁が侵され、びらん(ただれ)ができたり潰瘍ができて膿んだりします。
食生活の乱れがダイレクトに現れる場所といってもいいでしょう。大腸の疾患がある場合、大腸内視鏡検査を受ければその箇所と病名を確定することができますが、まずは大腸に負担をかけないような食事を実践することも非常に重要です。
下痢や便秘を繰り返しやすい人はどんな食生活を送ったらいいのか、医師と相談をしてみるのもいいでしょう。