日本人の死因第一位である『がん』の中で、大腸がんは最も患者数が多く、死亡数は肺がんに次いで第二位となっています。年齢別にみると40歳代から増加し始め、高齢になるほど患者割合が増加します。
大腸がんは、早期に発見できれば、内視鏡や手術による切除でほとんどが治癒できます。ただ、早い段階ではあまり自覚症状が現れないため、『大腸がん検診』で便潜血陽性を指摘され、精密検査として大腸内視鏡検査を受けて初めて見つかるというケースも少なくありません。
今回は、そんな大腸がんの内視鏡的治療にスポットを当て、治療の方法や注意点についてご紹介します。
目次
そもそも大腸がんとは?
腸は正面から見て、お腹に『の』の字を描いたような形をしています。最初の下に下る線が小腸、そして右下腹部から盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸とつながる部分が大腸です。盲腸からS状結腸までをまとめて結腸と呼びます。大腸がんは結腸および直腸にできるがんのことで、日本人は直腸およびS状結腸にがんができることが多いようです。
<大腸がんの原因>
大腸がんの発生には、遺伝的な要因の他に以下のような生活習慣が影響していると言われています。
・動物性たんぱくや脂肪の過剰摂取
・食物繊維の摂取不足
・運動不足
・肥満
・喫煙
・飲酒
特に近年では、食生活の欧米に伴い大腸がんの発生が増えていると考えられています。
<大腸がんの症状>
初期ではあまり症状はありませんが、健康診断などで便潜血陽性となり発見されることがあります。進行してくると、便通が安定しない(便秘と下痢を繰り返すなど)、便に血が混じる、お腹が張る、便が細いまたは出にくい、慢性的な出血による貧血などの症状が出始め、がんが大きくなると便が出なくなり腸閉塞を起こします。
<大腸がんの検査>
・便潜血検査
・大腸内視鏡検査
・注腸造影検査
・腹部CT、腹部エコー、MRI、PETなど(がんの状態を確認する他、他の臓器への転移がないかを判断します)
<大腸がんの転移>
大腸から流れる血流にのって、肝臓や肺にしやすいと言われています。大腸がん自体は初期段階ではあまり自覚症状が見られないため、転移が先に見つかるケースもあります。
大腸がんの内視鏡治療ってどんなもの?
大腸がんの治療は、がんの進行度や全身状態、年齢などを総合的に見て決定されます。このうち内視鏡治療は、がんの深さがごく軽度(1mmまで)でリンパ節に転移している可能性がほとんどなく、内視鏡で一括で切除しきれる部位と大きさの場合に適応となります。
<大腸がんの内視鏡治療のメリットとデメリット>
開腹などの手術と比べて体への負担が少なく、安全に受けることができる治療方法で、通常入院期間も短くて済みます。しかし、切除時の出血や腸に穴があく穿孔などの合併症の危険性は否定できません。また、内視鏡的に切除した病変を詳しく調べ、転移の危険性などが分かった場合には、後日手術の適応となる場合もあります。
<大腸がんの内視鏡治療の種類>
病変の部位や大きさ、形などから判断し、以下の方法の中から治療方針が決定されます。
・ポリペクトミー:茎のあるポリープや初期の胃がんに適応されます。茎の部分に細いワイヤーをかけてぎゅっと絞り、高周波電流を流して切除する方法です。
・内視鏡的粘膜切除術(EMR):茎のない病変の下に生理食塩水などを注入し、病変を盛り上がらせてから、ポリペクトミーの要領でワイヤーをかけて切除する方法です。
・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD):病変の範囲が広い場合に用いられる方法で、病変の下に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入して病変を盛り上がらせてから、高周波ナイフで病変の周囲を少しずつ切開し、粘膜下層から病変を剥がしていく治療法です。三種類の方法の中では最も難易度が高く、時間もかかります。
治療をした後の注意点は?
大腸内視鏡治療は、治療後の日常生活には大きな影響を与えません。治療後一週間程度様子を見て、問題がなければ通常の生活に戻れると言われています。なお、この一週間は腸に負担をかけないよう、食物繊維の多い食事や油の多い食事は控えた方が良いようです。また、飲酒や激しい運動も避けましょう。
治療時にはすべての病変を取りきれたように見えても、採取した病変を詳しく調べる病理診断の結果、後日手術が必要となる場合などもあります。また、治療後も転移や再発の可能性が少ないながらも残ります。そのため、定期的な経過観察が必要となりますので、主治医の指示をよく確認して必ず経過観察を続けましょう。
大腸癌の転移や再発については、以下の通りです。
<転移>
大腸がんの場合、転移しやすい部位は先述したように肝臓や肺の他、腹膜、脳、骨などに見られます。転移が見つかった場合は、部位や状態にもよりますが、手術・化学療法・放射線治療などの治療が行われます。
<再発>
内視鏡治療でがんがすべて取りきれていれば、そのがん自体は基本的に再発することはありません。しかし、一度がんができたということはがんができやすいと言えます。そのため、違う部位などに新たながんができるという場合もあります。
また、治療時には小さすぎて見つからなかったがんがしばらく経ってから大きくなってきて見つかるという場合もあります。このため、定期的な経過観察が非常に重要となるのです。一般的に、治療後少なくとも5年間は定期的な経過観察が必要とされているようです。経過観察には、基本的に大腸内視鏡検査が行われます。
内視鏡以外の大腸がん治療とは
内視鏡以外の大腸がんの治療法についてご紹介します。
<外科治療(開腹手術)>
手術では、がんの部分だけでなくがんが広がっている可能性のある部分(周辺の腸管やリンパ節、可能であれば周辺臓器など)まで広めに切除します。その後残った腸管をつなぎ合わせるか、つなぎ合わせることができない場合には人工肛門を造設する場合もあります。
人工肛門と聞くと不安になると思いますが、人工肛門は痛みを伝える神経がないため触ったりして痛むことはありませんし、取り扱い方法などは手術後に看護師とともに練習し、習得してから退院となります。便を溜めるパウチには防臭加工がされているため外からはにおいませんし、人工肛門を持つ人(オストメイト)専用のトイレ設備のあるところも増えていますので、外出や旅行なども問題なくできます。入浴の際にはパウチは外し、専用のカバーで人工肛門部を覆って通常通りに入浴することができます。
<腹腔鏡下手術>
お腹に腹腔鏡と呼ばれる機械や手術道具を入れるための穴を数か所開け、炭酸ガスでお腹を膨らませながら行う手術です。開腹手術と比べてお腹の傷がかなり小さくて済むので、術後の痛みが少なく開腹も早い治療法ですが、難易度が高くなるので手術時間が長くなることが多く、手術費用も少し高くなります。
<放射線治療>
手術前に人工肛門を避けるなどの目的で補助的に行うものや、がんによる痛みや転移による様々な症状を緩和するために行うものなどがあります。
<薬物療法(化学療法)>
点滴や内服薬があります。複数の薬剤が開発されているので、症状の改善や副作用などの様子を見ながら合う薬を探していく場合があります。
最後に
大腸がんの内視鏡治療と、その他の治療法について紹介しました。大腸がんを含め、がんはできるだけ早期に発見し、治療・対処することが大切です。初期のうちは自覚症状がほとんどないことも多いため、がん検診などで定期的にチェックすることが大切です。
もしも気になる症状があったり、がん検診などで異常が指摘されたりした場合には、決して自己判断せず、できるだけ早く専門医に受診しましょう。早ければ早いほど効果的に治療ができますし、転移などのリスクも下げることができます。大腸内視鏡検査を活用して、健康な生活を送りましょう。