内視鏡検査で大腸ガンの早期発見を

日本国内で胃の集団検診が発達したことで、胃ガンによる死亡率は順調に減る傾向にありますが、大腸ガンは食の欧米化に伴って急激に増加しています。これに対応するためには、積極的に検査を受ける必要があります。大腸ガンは早期発見することで治療が有効なガンでもあります。
この記事では、大腸ガンの基礎知識から検診の方法、治療方法について解説します。

大腸ガンの概要

大腸は、虫腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸、肛門に分かれており、直腸と肛門以外はまとめて「結腸」と呼ばれています。結腸は小腸から送られてくる液体状の便から水分を吸収する役割があります。その後、便は固まりながらS状結腸と直腸に送られ、肛門の外へ押し出されます。

大腸ガンは粘膜で発生、成長します。傷ついたDNAの修復障害や遺伝子の異常などが原因で、粘膜で直接癌細胞が発生することや、ポリープが成長することでガンに発達する場合があります。このように腸の壁に生まれたガン細胞は、数ヶ月~数年をかけて進行していきます。癌細胞は進行と共に腸の壁に広がるほか、血液やリンパ液に混じることで、別の臓器に転移します。

転移する先で最も多いのはリンパ節です。リンパ節とはリンパ球という免疫細胞が集まっている部位で、リンパ管によって繋がっています。その管を流れるリンパ液という体液に乗ってガンが広がっていきます。また、腹膜転移といって、内臓を被さっている薄い膜に転移することもあります。

これらの状況によって、日本ではステージ0、1、2、3a、3b、4の6つの進行度が決められています。Stage0から次第に重くなっていきます。早期癌(ステージ0~2)は粘膜下層までにとどまっているもの、進行癌(ステージ2~4)は固有筋層まで広がっているものと定義されています。このような進行度は、顕微鏡による検査の結果で判定されます。

大腸ガンの検診方法とは

近年、食の欧米化に伴って大腸ガンは急速に増加しています。高脂肪摂取が大腸に大きな負担になっていることが原因と考えられています。これに対応するため、日本では40歳以上を対象に、免疫便潜血検査が行われています。

便潜血陽性の人は、大腸に何らかの疾患がある可能性が高く、精密検査を受ける必要があります。その方法には、内視鏡検査や注腸X線検査などがありますが、診断性能が高いことや、同時に治療も行えることから、内視鏡検査がより一般的です。便潜血陰性の場合でも、1年間隔で検診を受けるのがいいでしょう。

便潜血陽性の患者約2%に大腸ガンが発見されたことが統計で明らかになっています。これに大腸ポリープをあわせると便潜血陽性の患者半数以上に何らかの腫瘍性病変が見られたという報告もあります。しかし、全国集計によると「要精密検査」と判断された患者のうち、実際に検査を受ける人は60%前後です。早期治療をするためにも、面倒臭がらずに積極的に検診を受けるようにしましょう。

大腸ガンの手術療法とは

治療法には、手術療法、抗癌剤治療、放射線療法、温熱療法、免疫療法などさまざまな種類があります。それぞれを単独で受けるより、集学的治療といっていくつかの治療法を組み合わせて行うことが多いです。

手術療法には、開腹手術と腹腔鏡補助下手術があります。病気の進行状態や部位によって適切な手術方法を選択します。

開腹手術

これは、古くから行われている手術方法です。開腹手術の利点は、医師が直接病変を見たり触れたりできるため、短時間で安全、確実に手術ができる点です。ただし、傷が大きくなりがちで、体への負担が大きい点がデメリットといえます。

腹腔鏡補助下手術

患者に全身麻酔をかけ、腹部に5~10mmほどの小さな穴を4、5カ所開け、炭酸ガスを腹部に送り腸内を膨らませた状態にして手術を行います。 手術では、ガンのある部分を外に出して切除し、新たに腸をつなぎ合わせるので、4~10cmくらいの傷が残りますが、従来の開腹手術と比較すると1/5~1/2くらいです。 また、摘出部位以外にあまり触れないため、体への負担や痛みが少ないので、術後の回復も早くなります。ただし、腸にガスを入れて膨らませることで胸が圧迫されるため、心臓や肺に疾患のある方には向きません。

以上の説明はあくまでも大まかな解説で、実際には、ガンの進行度や状態、ガンがある部位や患者の健康状態などに合わせて医師が柔軟に対応します。開腹手術と腹腔鏡補助下手術、それぞれの利点と欠点を考慮し、その人にあった方法を選択します。そのため、腹腔鏡補助下手術中でも、外科医の判断で開腹手術に切り替えることもあります。また、開腹手術にも小さな創で行う小開腹法など、さまざまなバリエーションがあります。

人工肛門

直腸ガンの場合や合併症軽減のために、「ストーマ」と呼ばれる人工肛門を永久的もしくは一時的に造ることがあります。永久的なものでは、S状結腸を左下腹部に出すのが一般的です。手術の危険性や合併症を防ぐ目的で一時的(約3~6ヶ月)に造る場合もあり、退院後はストーマ外来で人工肛門のケアを受けることができます。

危険性と合併症

ガンの手術療法における危険性は、麻酔と手術の両面から考える必要があり、心筋梗塞や循環器、呼吸器障害、脳出血や脳梗塞などが含まれます。合併症には、出血や縫合不全、腸閉塞などがあり、再手術が必要になったり、重大な障害が残ったりすることもあります。特に直腸ガンの手術では、膀胱機能障害や性機能障害、排便機能障害などが一時的もしくは永久的に残ってしまう可能性もあります。

術後の大腸機能

手術前と比べると多少の違和感はありますが、ほとんどの場合、生活に支障をきたすことありません。ただし、直腸ガンの患者に低位前方切除術を行った場合は、排便回数が増えたり、排便しにくくなったりすることがあります。これらの多くは、手術後半年~1年で安定します。

輸血について

手術中に輸血が必要になった場合には、日本赤十字社から供給される血液を輸血します。輸血の際に副作用を起こしたり感染症にかかったりする可能性もゼロではありません。必要最小限で使用することを原則とし、状況によっては自己血輸血をします。

抗がん剤を使用しての治療

ガンの進行度によって抗がん剤を使用する場合があります。抗がん剤はほとんどの場合手術後に使われます。副作用は人によって内容も程度も違います。重大な副作用のひとつ、骨髄抑制を起こすと、血液中の白血球が減少し感染症にかかりやすくなったり、赤血球が減って貧血を起こしたり、血小板減少により出血しやすい傾向になったりすることがあります。白血球が減っている場合は、それを増やすための注射薬を併用します。
消化器系の副作用では、重度な下痢を起こして多量の点滴が必要となることもあります。嘔吐、吐き気、食欲不振、口内炎、色素沈着、 全身倦怠感、肝機能障害などが発現する人もいます。

また、比較的多くのガン患者に見られる色素沈着は、抗癌剤を中止すれば元に戻ります。ただし、大腸ガン治療でよく使用される抗がん剤には、脱毛の副作用はありません。このような副作用は、各抗癌剤によって異なるので、担当医師に聞いてみましょう。

日本では、胃の集団検診が普及したことで、胃ガンによる死亡率は減少している一方、大腸ガンは近年急激に増加しています。このような傾向に対応するためには、積極的に検査を受ける必要があります。
便潜血陰性でも大腸ガンを持っている人もいるため、内視鏡検査を定期的に受けることが望ましいですが、時間や予算に限りがある人は、せめて便潜血反応を一度受けてみましょう。
便潜血反応陽性であれば、大腸ガンの可能性がありますので、必ず内視鏡検査で精密な診断を受けましょう。検査で異常があっても自覚症状がないからといって放置することは禁物です。