日本では昔から菜食を中心とした食生活が営まれてきました。このため、大腸癌にかかる確率は他の諸国と比較しても極端に低いというメリットがありました。
ところが近年では食生活の内容が大幅に変化し、脂肪分の多い肉などが好んで食べられるようになり、大腸癌の罹患率が格段に増加しました。
特に女性に関してはがん死亡率でも大腸がんがトップクラスに位置しているという統計結果が出ているほどです。毎年、日本全国で2万人以上の女性が大腸がんで亡くなっていますから「対岸の火事」と他人ごとのように思っているわけにはいきません。
大腸癌にかかる前に、定期的に検査を受けて癌の早期発見に努めましょう。
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若いからといって安心していてはいけない
日本人のがん罹患数は1,013,600人(2018年予測)ですが、この中でも第1位を占めているのが大腸がんの152,100人で、以下第2位に胃がん(128,700人)、第3位に肺がん(125,100人)と続きます。
男女別に見ても男性の場合は、罹患数が最も多い胃がんに続いて大腸がんは第2位、女性では1位の乳がんに続いて2位が大腸がんという結果が出ています。
さらに見逃してはいけないのは、女性における大腸がんの死亡率が1位だということです。罹患数の最も多い乳がんの死亡率は全がんの中でも第5位ですから、乳がんは罹患しても比較的治りやすいがん、逆に大腸がんは治りにくいがんであることがわかります。
大腸がんの発症する年代は40歳以降が多く、60代がピークとなっていますが、30代でも罹患数が増える傾向にありますので、「まだ若いから心配はない、だいじょうぶ」と楽観的に考えるのは、やめたほうがいいでしょう。
男性と比較して女性に大腸がんが多いのは、やはり便秘気味の人が多いからです。便秘というのは食べたものが腸内に停滞している時間が長いということですが、便秘が続くと便に含まれている老廃物や有害物質を体内に長時間抱えこんでしまうことになります。
この有害物資が腸壁に長く触れていると、その部分が大腸がんを誘発しやすくなります。無理なダイエットも便秘に拍車をかけるため、若い女性の大腸がん罹患数が上昇しているというわけです。くれぐれも過激なダイエットなどはしないように、健康を意識した食生活を心がけましょう。
大腸がんは早期発見が大切
がんでは早期発見と治療が重要ですが、特に大腸がんに関してはできるだけ早いうちに病変を発見して適切な治療を行っていくことが大切です。大腸がんの診断を受ける人は毎年10万人以上、大腸がんで亡くなる人は4万人以上にも上るわけですから、定期的に検査を受けて早期発見に努めることが何よりも大切です。
大腸がんの検査というと内視鏡検査が一般的ですが、この検査を受ける前にまずは便潜血検査を受けましょう。各地方自治体や保健所などで大腸がん検査(便潜血検査)を行なっていますから、日程などを問い合わせてみることをおすすめします。
大腸がん検診の対象となるのは40歳以上の人ですが、受診間隔は年に一度がおすすめです。検査時には便潜血検査と問診が行われますが、問診では既往歴や家族の病歴、現在かかっている病気などについて質問されます。
検査後10日~1ヶ月ほどで検査結果が通知されますが、陰性(血便がない)の場合は、また翌年に一次検診(便潜血検査)を受けます。逆に陽性との結果が出たときは二次検査(内視鏡などを使った精密検査)を受けなければなりません。
前年度に40・45・50・55・60歳になった男女に関しては厚生労働省が検診無料クーポン券を送付していますので、ぜひ利用したいものです。これ以外の年齢でも市町村の大腸がん検診では600円程度の自己負担額で便潜血検査を受けることができます。
せっかくの便利な制度があるのに半数以上の人は活用していないのが現実ですから、欠かさず受診して大腸がんを未然に防ぎたいものです。
内視鏡検査のほうが診断は確実
ただし毎年のように便潜血検査を受けているにもかかわらず、大腸ポリープや初期の大腸がんにかかっている人も全くいないわけではありません。便潜血検査では精度を上げるために「2回法」といって異なる日の便を2回採取して検査しますが、これでやや進行した早期がんの61.3%、進行がんの85.6%が発見されます。
ところがこれは逆に言うと、進行がんの状態でも14.4%、早期がんの場合38.7%は便潜血検査を行っても陰性の結果が出てしまう、つまり検査に「ひっかからない」ということになります。
ですから、毎年便潜血検査を受けているけれど便秘や下痢の症状が繰り返し現れる、腹痛がなかなかおさまらない、あるいは家族の中に大腸がんの人がいるというのであれば便潜血検査で問題がなくても内視鏡検査を受けることをおすすめします。
大腸で起こる病気には、大腸がん以外に大腸ポリープという病気があります。突起物のことをポリープと呼びますが、「腫瘍」と「腫瘍以外のポリープ」の2種類に大きく分けられます。
腫瘍以外のポリープには、炎症性ポリープと老化現象の一種ともいえる過形成性ポリープがありますが、いずれもすぐにがんに発展していく危険性はあまりありません。これに対して腫瘍には一般に大腸ポリープと呼ばれている腺腫と大腸がんがあります。便潜血検査だけに頼っていると内視鏡検査で大腸がんや腺腫が見つかるケースもゼロとは言えないので、大腸がんのリスクが高い人は数年おきに内視鏡検査も受けて早期発見に努めたいものです。
大腸がんの初期症状とは
以上のような検査を受けて大腸がんの早期発見に努めていくと同時に、日ごろの体調管理を心掛けることも病気を未然に防ぐには大変有効な方法です。
近ごろ身体の調子がすぐれない、疲れやすくなった、腹痛が続くなどの気になるサインがあるときはすぐに病院で診察を受けることが病気の早期発見と治療にもつながります。
大腸がんというのは初期のうちはなかなかはっきりとした症状が出ないため、つい診察を受けるのが遅れがちになってしまいますが、「便意はあるのになかなか出ない」「残便感がある」といった自覚症状がある場合には、できるだけ早く専門医に診てもらいましょう。
下痢や便秘が続く、あるいは交互に繰り返すような場合やお腹になんとなくしこりがある場合も大腸内にトラブルのある可能性があります。また、便に粘液や血液が混じっている場合にはすぐに診察をしてもらい、大事に至るのを防ぐことが大腸がん早期発見の大きなカギとなります。
同じ便に血が混じるのでも、痔が原因の場合は真っ赤な鮮血が出ますし、排便時の痛みも伴います。これに対して腸内部にトラブルがある場合には鮮血が出るというよりは便に混じってどす黒い色になります。
ただし肛門近くにポリープができていると痔と間違えやすいこともあるので、「単なる痔だから」と自分で判断せずに、必ずきちんと検査を受けたいものです。お腹に常にガスが溜まっているような不快感や食欲不振、吐き気、体重の減少あるいは全身の倦怠感なども見逃せないサインです。
内視鏡検査や便潜血検査と合わせて直腸指診や直腸造影検査なども有効な検査方法です。
大腸がんの患者数はこの30年間で約5倍と劇的に増えています。このように大腸がんが急激に増えたのは、やはり肉食をする機会が増えたことが原因であることは否めません。特に赤身の肉や加工肉は大腸がんリスクを有為に高めますから、定期的に検査を受けていくと同時に食生活を今一度見直すことが大切になってきます。
魚や鶏肉は大腸がんとはあまり関連性がありませんので、豚肉や牛肉の摂取を控えて魚を多めに摂るなどといった昔からの日本食を見直してみるのも悪くありません。
「医食同源」という言葉もあるくらいですから、身体に優しい食生活で万病を予防するのが理想的です。